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【JO直前企画】前回大会女王・青木知枝インタビュー_003

2026.09.17

「お天道様に顔向けできるか」——身体能力を凌駕する『決め事』

フルタイム勤務に3人の育児。練習時間は「ほぼゼロ」。そんな過酷な状況でトッププロをなぎ倒し、タイトルを獲る。奇跡のようにも思えるが、青木知枝の撞球には、徹底的に研ぎ澄まされた「合理性」と、自分を疑わないための「膨大な準備」があった。連載第3回は、彼女が全球に対して課している驚くべき「決め事」と、1ミリの妥協も許さない勝負哲学に迫る。

第1回 5時起床、ダンプ、そしてプロ。「回らない毎日」を愛する理由
第2回 「どっちも諦めない」ための就活と、どん底からの復帰

■センスは「マイナス」。だから工夫し、人を真似る

——第1回、第2回と生活のリアルを伺ってきましたが、ここからは技術やメンタルの深い部分を訊きたいと思います。青木プロは以前、『ビリヤードCUE’S』で連載していただいていた時から「自分は考えるタイプだ」と仰っていましたが、そのスタンスは今も変わりませんか?
青木 変わりませんね。というか、考えてなかったら、私、普通の人並みにすら撞けていないレベルです。本当に身体能力が低いんですよ。

——いやいや、あれだけ球が入るのに「身体能力が低い」なんて言ったら、みんな怒りますよ(笑)。
青木 いや、本当なんですって! 昔からスポーツも何もかもダメなタイプで、運動神経もセンスも、ゼロどころか「負(ふ)」からのスタート。グループで一見さんとして遊びに来て、一人だけ球に当たらない子っているじゃないですか、どうしようもない子が(笑)。あのタイプだったんですよ、私。

——そこからのスタートだった、と。
青木 はい。だからこそ、自分に残された武器である「工夫する能力」と「人の真似をする能力」だけは、誰よりも使い切りたいと思っているんです。よく「器用だね」って言ってもらえますけど、それは違う。器用じゃないから、考えて、考えて、考えて……やっと「器用そうに見える形」を後天的に作っているだけなんです。

■全球、全ショットに設けた「緻密な決め事」

——具体的にどう「考えて」いるんですか?
青木 私、人よりめちゃくちゃ「決め事」が多いんです。それこそ全ショット、全球に対して細かいルールを課しています。「この球の時は足の位置がこう」「ここの筋肉に力を入れる」「顔の向き、角度はこう」……。構える前に、チェック項目がすべて決まっているんです。

——全球に、ですか! それは気が遠くなるような作業ですね。
青木 はい。でも、それを全部守れば、できないはずがない。そう自分を信じて撞くための「なんとなく」をなくす作業なんです。練習ができない今の私にとって、唯一の「再現性」を担保する方法なんですよ。

——なるほど。練習量で感覚を維持できない分、緻密な「型」を厳守することで、いついかなる時も同じパフォーマンスを出せるようにしているわけだ。
青木 そうです。私は体幹も弱いし、放っておくと文字通り体が「揺れる」んです。それに、もともとは「ノミの心臓」なので(笑)、構えている時間が長いほどビビって、手が動かなくなっちゃう。

——「チビる」という感覚ですね。
青木 だから、「揺れる前に撞く」「チビる前に撞く」。そのために、構える前の「立っている状態」ですべてを決めておいて、入ったら迷わず出す。私のストロークが早かったり、構えに入るのが人より早かったりするのは、実はビビりを隠すための、極めて合理的な工夫なんです。

■「お天道様に顔向けできるか」という自問自答

——その「決め事」の中で、最も大切にしている精神的な基準は何ですか?
青木 最近、自分によく言い聞かせているのは「お天道(てんとう)様に顔向けできるか」っていうことです。

——また、青木プロらしい独特な表現ですね。
青木 例えば試合中、「これ、バンクで行きたいな、格好よく決めたいな」っていう欲が出ても、ふと立ち止まるんです。「おい知枝、その選択、帰ってからみんなに胸を張って説明できるか? お天道様に顔向けできるのか?」って。

——「なんとなくの攻め」を自分に許さない、と。
青木 はい。「絶対に入ると信じ切れるのか。もし外れても、セーフティになると確信して選んだのか。他に、地味だけど確実な選択肢はないのか?」って、自分を追い詰めるんです。そうやって、自分の中で「最も確率が高い選択」を突き詰めて、納得した時だけ撞く。それが私の本当のルーティンなんです。

■「10倍濃く」撞く。負けられない理由

——試合中の過ごし方も、以前とはガラッと変わったそうですね。
青木 昔は「相手の球を見て勉強しなきゃ」と思って、全力を注いで観察していたんです。でも、自分の番が回ってきた時にはもう、知恵熱が出るくらい疲れ切っちゃっていて(笑)。

——それじゃあ本末転倒ですね(笑)。
青木 そうなんです(笑)。今は動画でいくらでも勉強できる時代ですから、試合中は他人の球を一切見ません。隣のテーブルでイメージのいい音を出している人の「音」だけを聴いて、自分の番が来たら「この1球をどうするか」だけに全神経を注ぐ。

——まさに、1球を「10倍の密度」で撞いている。
青木 そうせざるを得ないんです。遠征費を出してくれている人たち、会社を休ませてもらっている義理、そして何より、寂しい思いをさせている子供たちの存在。負けた時に「ごめん、でもママは1球も妥協せずに、最後まで考えて撞いたよ」って、子供たちにも自分にも胸を張って言いたい。その「義理」を通すための10倍なんです。

——その強い意志があったからこそ、去年のジャパンオープンでも、苦しい展開をまくり(逆転し)、頂点まで駆け上がれたんでしょうね。
青木 負けるのは勝負だから仕方ない。負けるときは負けます。でも、「妥協して負ける」ことだけは、今の私には絶対に許されないんです。

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