【ビリヤードプレイヤー・ファイル】JPBA土方隼斗プロ編_03
苦悩からのV字回復。エイトボール世界選手権ベスト4の激闘
2025年シーズン、3年連続となる国内ランキング1位・年間MVPの座に輝いた『日本プロポケットビリヤード連盟』(JPBA)所属の土方隼斗(FR:805)。国内ではグランプリ3勝、全日本オープン14-1選手権優勝と盤石の強さを見せつけ、海外ではエイトボール世界選手権ベスト4という自身のキャリアハイを達成。まさに日本のトッププレイヤーとして、そして世界の強豪として、その存在感を改めて示した1年だったと言えるだろう。激動のシーズンを終え、2026年開幕戦を前にした彼は何を思うのか。国内での戦い、そして世界の舞台で得たものとは。3回にわたる連載で、土方隼斗の2025年シーズンを深く掘り下げる。
●プロフィール
名前:土方隼斗(ひじかた はやと)
生年月日:1989年3月16日(36歳)
プロ入り年:2006年(JPBA40期生)
出身地:東京都
JPBA公式戦優勝数:47
スポンサー:MEZZ Cue、自遊空間、sesSion、Just do it、BIZEN TIP、ビアポンバー、ココカラダ
チャイナオープンで手応えを掴んだものの、続くベトナムでの2連戦では苦杯をなめた土方プロ。連載最終回となる第3回では、その苦境からいかにしてV字回復を遂げたのか、そのメンタルチェンジに迫る。シェーン・バンボーニングをも破ったエイトボール世界選手権での快進撃、そして新シーズンへの展望とは。
【ビリヤードプレイヤー・ファイル】JPBA土方隼斗プロ編_01
【ビリヤードプレイヤー・ファイル】JPBA土方隼斗プロ編_02
●結果がないと「海外戦に出ていただけの人」になってしまうので
——その後のベトナムでのテンボール世界選手権とペリオープンは、残念ながら予選敗退という結果でした。精神的にもかなりこたえた2大会だったのではないでしょうか。
土方: いやあ、良くなかったですね。調子的には悪くなかったんですよ。むしろ良かったんです。テンボール世界選手権では、1回戦でちょっとらしくないミスを2回くらいしてしまって、相手に隙を与えてしまって負けちゃったんですよね。まあ、その試合は自分のミスがあったんで反省だったんですけど、敗者側の試合では、めちゃくちゃ入れられてというか……。
——相手が良かったんですね。
土方: 1セット目を取られてから、2セット目は3-0にしてリーチをかけたところですごいプレーをされて展開もそこから急に悪くなりました。その試合に関しては大事なところでのミスは全然なかったんですが、ヒルヒルになって最後は相手にものすごいマスワリをされました。テンボール世界選手権は結局それで負け負け。そこまでの海外戦も決してアベレージが低いわけではなかったし、気持ちもしっかり入って良いプレーもできていましたから、ほんとショックでしたね。
ベトナム2連戦ではビリヤードの難しさに苦しんだ
——ペリオープンではその気持ちを引きずってしまった?
土方: 引きずってました。この試合では1回戦で(ラルフ・)スーケー(ドイツ/FR:797)さんと当たって勝ったんですが、2回戦で王泓翔(台湾/FR:782)選手に負け、敗者側でもサウジアラビアのプレイヤーに負けました。この時もメンタルも良い状態を保てていたし、力は出しているけど勝てない。もちろんこれが世界の戦いでビリヤードという競技だとわかっているんですが、モチベーションが1回下がったの覚えてますね。
——しかし、その直後のエイトボール世界選手権ではベスト4。見事なV字回復でした。何がきっかけだったのでしょうか。
土方: 良い状態で平常心でプレーできていた2戦で結果が出なかったことを経験したので、そこで一旦リセットしました。今度は逆にもっと熱を入れるというかアグレッシブなメンタルでプレーしてみようと思って実際にそのスタイルで試合に臨んだのが上手くいった感じです。
——なるほど、あえてメンタルスタイルを変えたんですね。
土方:2024年にはこのスタイルで戦って逆に良くなかったんじゃないかと思うこともありました。ですからこの辺り、メンタルのプレースタイルにはいつも悩まされます。ビリヤードはここが本当に難しくて常に改善していこうとしていますが、この時は思考を変えてやってみようと思いました。
WC:それが見事にハマった感じですか
土方: そうですね。初戦のステファン・カスパー(ドイツ/FR:807)選手のとの試合で、前半は少し競ってたんですけど、多分上がり4連(続マスワリ)くらいしたんです。そこで良い勝ち方ができたので、もうこの大会はこれでいこうって思いました。
——その勢いで、シェーン・バンボーニング(アメリカ/FR:846)、ダニエル・マシオル(ポーランド/FR:815)といったトッププレイヤーを次々と破りました。
土方: はい、大会全体を通して、メンタルの状態は高く保てていました。シェーン選手との試合は、テレビマッチで過去最高にミスがなくというか、パーフェクトゲームに近い状態でプレーできていたし、それが実感できた試合ですね。海外のトップ相手に1回良い試合ができることはあっても、大会中にそれを継続することは難しいので、そこを絶対に乗り越えたいなと思ったのが、マシオル選手との試合でした。
土方隼斗 vs シェーン・バンボーニング(Pro Billiard TVより)
——確かに準々決勝のマシオル戦も10-5の完勝でしたね。そして準決勝の相手はアルビン・オーシャン(オーストリア/FR:831)でした。これは本当に惜しい試合でした。
土方: あの試合は2025年の中で一番記憶に残っています。ブレイクノーインから追いつかれて、マスワリで終わって……本当にもう1球撞きたかったですね。もちろんその前までに勝ち切っておかなければいけなかったんですけど、オーシャン選手が全く動じず安定したプレーを続けていました。世界選手権での戦いは生易しいものではありません。
土方隼斗 vs アルビン・オーシャン(Pro Billiard TVより)
WC:メンタルの状態はどうだったのでしょうか?
土方:良い状態でした。ただ、自分の中で思っちゃいけないと思いつつも、「今すごいチャンスがあるな」という意識がずっとあったと思います。難しいです。
——それでも世界選手権ベスト4という結果は、大きな収穫だったのではないでしょうか。
土方: そうですね、正直現状で大井(直幸/FR:825)さんと違ってそんなに数多く参加はできてないんですけど、毎年5戦から10戦くらい海外で戦って毎年1回でもベスト4以内に入れていれば、何にも収穫がなかったわけではないかなと思います。でも逆にあの試合がなかったら結局、2025年は「何にもなかった」となってしまったかもしれません。
——厳しい世界ですね。
土方: 結果がないと「海外戦に出ていただけの人」になってしまうので。本当に厳しい世界です。
●WPAランキング32位以内は落としたくないですね
——そして土方プロの2025年海外最終戦はカタールオープンでした。この大会を前にファーゴレートも自己最高の805まで上がりました。
土方: そうだったんですね。ファーゴレートは正直そこまで気にしているわけではなく、やはり海外トップ勢とコンスタントに戦って勝っていかなければ上がらないですが、最低でも800以上はいってないととは思っています。
——カタールでの戦いはいかがでしたか。
土方: イメージも調子も良かったです。海外戦では、よく知らない選手にものすごく入れられるみたいなことが結構あって1回戦で負けたんですが「またこれか」と思いながらも、気落ちすることなく、敗者戦側を戦いました。この時は敗者最終戦が自分の中では大きかったですね。今までの自分だったら、「この試合勝ててないよな」という試合でした。相手はカタールでスヌーカーコーチをしている人で、イギリスの人らしいんですけど、めちゃくちゃ強かったです。自分の中ではシェーン選手との試合以上のパフォーマンスを出せた試合で、ここまで入れられて、展開も良くなくて、リードされていたのに、メンタルを保ちミスなく、最後勝ち切れたのは良かったなという試合ではありました。
——そして、決勝トーナメント1回戦の相手はまたしてもアルビン・オーシャンでした。
土方: はい。海外戦に行っていると、なぜか連続して同じプレイヤーと当たってしまうことがありますよね。2025年はオーシャン選手もそうだし、ゴールデンナインで当たったズオン・クォック・ホアンはUSオープンでも当たったし、スーケーさんとも2回試合しています。カタールでのオーシャン選手との試合は展開が悪かったです。2戦連続で負けたくないと思っていましたが、トップスターを相手にもうこの展開じゃ無理ですって感じになってしまいましたね。
——では、アルビン・オーシャンへのリベンジはぜひ今年に、ということで、ここまでお話を伺ってきた2025年の海外での戦いを経て、2026年シーズンの目標を教えてください。
土方: やはりWPAランキング32位以内は落としたくないですね。そこに入っていれば、チャイナオープン以外は安定して出場できますから。でも、去年僕のマックスが13位だったんですが、2025年には全部のプレイヤーが戻ってきて、もうフルメンバーになっていますから、32位以内をキープすることもだいぶ難しくなっていますね。
WC:今年はさらにWPA公認、主催の試合数も増え賞金額も上がっていきそうですから争いはさらに激しくなるでしょうね。
土方: はい、この状況の中、僕は全ての試合に出ることはできませんから、どの試合を選んで出場していくか、さらにそこで確実に上位に入るかという難しさはあります。ただランキング32位は落としたくないので、出場試合で確実にポイントを獲得できるようにしていきたいですね。そして今年もWPAの試合が中心になりますが、ランキングを維持した上でエイトボール、テンボールの世界選手権タイトルはしっかり狙っていきたいと思います。
WC:さて土方プロの海外初戦ですが、2月のPBSラスベガスになるんですか?
土方:はい、今年はここからスタートです。男子オープンでまず結果を出したいですが、チームマッチでは大井さん、河原(千尋/FR:749)さんとチームを組んで戦うことになりそうで、それも楽しみにしています。
WC:チーム戦もものすごく期待できそうですね。それでは最後になりますが、JPBAの2026年シーズン開幕戦の関西オープンが間もなくです。国内戦初戦に向けて一言いただけますか?
土方: 関西オープンでは去年予選落ちしているので、まずは決勝日に残ることですね。そして今回は決勝会場が飯間(智也/FR:769)プロのお店(DRAGON)ですよね。僕はここで撞いたことがないので、ぜひプレーしたいです。そして気負うことなく、日本のビリヤードファンの前で、良いプレーを見せたいと思っていますので、ぜひ会場へ足を運んでもらえればと思います。
WC:本日は長時間にわたりありがとうございました。
土方: こちらこそ、ありがとうございました!
●土方隼斗の2025年
・海外戦8試合出場(wnt.2試合、WPA5試合、DUYAゴールデンナイン1試合)
・最高成績:3位タイ(男子エイトボール世界選手権)
・8戦の平均順位:44位
・FR推移:798→805
・獲得賞金:27,935ドル(約443万円)













