WPAの過去の課題と、あるべき姿に向けた模索
株式会社エンヴィジョン代表・平岡正人氏インタビュー〜第2回〜

KAMUI BRANDは、2月に行われた『ラスベガスオープン』でメインスポンサーとなった(写真中央が平岡代表)
KAMUI TIPをメインアイテムに、トーナメントやトッププレイヤーをスポンサードし、様々な国のビリヤード関係者と関わりながら広くビジネスを展開している株式会社エンヴィジョンの平岡正人代表は、ワールドプールシーンの現状を最もよく知るジャパンプール関係者の1人。ここでは、エンヴィジョンと世界の関わりから、活況を呈しているアジアの状況、さらにはWPAとwnt.の問題などについてじっくりとお話を伺ったインタビューの第2回をお届けします(第1回『ワールドプールシーンとKAMUI BRANDの関わり』。
●ビリヤードが縮小傾向の時代
――ワールドプールシーンが盛り上がってきた要因の一つに、2023年にwnt.が本格化して世界中でトーナメントを開催し、それに対してWPAやACBSもトーナメントを増やしていったことで、トッププレイヤーが活躍する場が増えた面もあったと思いますが、平岡さんはそれぞれの活動をどのように見ていますか?
平岡正人代表(以下、平岡):まずWPAに関しては、現在は南アフリカのイショーン・シン氏が会長を務めていますが、その前の会長はオーストラリアのイアン・アンダーソン氏でした。アンダーソン氏はビリヤード業界が縮小傾向にあった時期に会長に就任された方です。
――かなり長い期間、会長をされていましたよね。
平岡:アンダーソン氏の時代は、WPAの財政状況も厳しく、組織運営に苦慮していた時期だったと推察されます。当時、世界各国から「トーナメントを開催したい」という声が上がっていましたが、WPAとして、あるいは世界のビリヤード界としてどうあるべきかという明確な指針が確立されないまま、公認を出していくケースが見られたように思います。結果として、本来であれば試合開催に必要な手続き、例えば賞金総額に見合った資金を事前に供託するといったプロセスを経ずに開催が許可され、試合後に賞金が支払われないといった事態が発生することも残念ながらありました。

イアン・アンダーソン氏は昨年までWPAの上部組織であるWCBS副会長の職にあった(写真提供/JOY WORLD HEYBALL TOUR)
――未払い問題は時折耳にしました。
平岡:そういった問題を未然に防ぎ、適切に管理することがWPAに期待される役割の一つですが、当時はその機能が十分でなかった側面があったかもしれません。そのため、「WPAは一体何をしているのか?」とプレイヤーからの信頼を損なう場面もあり、プレイヤー自身も試合に集中しきれない状況から、業界全体の活力が低下していく一因となっていた可能性も考えられます。この状況を象徴するような出来事も経験しました。
――どのようなことでしょう。
平岡:2010年にプレイヤーとしてチャイナオープンに出場した際、オランダのニック・バンデンバーグ選手と会場からホテルへのシャトルバスで一緒になりました。その時、彼が「この大会の翌週にフィリピンで予定されていたテンボールトーナメントが、突然キャンセルになってしまった」と嘆いていました。彼はオランダから上海、そしてマニラへ飛び、そこから帰国する航空券を手配済みで、マニラのホテルも予約していました。変更が利かないため、「試合があろうがなかろうがマニラに行かなければならない」と、非常に困惑していました。
――それは大変な状況ですね。
平岡:これは、当時のビリヤードプレイヤーの少なからずが経験した可能性のある問題で、アンダーソン氏の時代には時折発生していたようです。このような経験を繰り返すと、プレイヤーは「試合は本当に開催されるのか?」「賞金は支払われるのか?」といった不安を抱えることになります。これは運営上のレギュレーションの問題であり、WPAがしっかりと管理体制を構築すべき点でしたが、当時のWPAは「それは主催者の問題であり、我々は公認を与えているだけだ」というスタンスを取ることがありました。
――……。
平岡:そのような状況下では、プレイヤー達はWPAの下でプレーを続けることに将来性を見出しにくく、「厳しい世界だが、夢を持ってビリヤードで頑張ろう」という意欲を持ち続けることが難しかったのではないでしょうか。
――確かに、その頃はプールプレイヤーとしてだけで生計を立てられる選手は、世界的に見ても限られていました。
平岡:一握りの選手が生計を立てられるかどうかも、大会主催者やWPAの運営状況に左右される部分があり、プレイヤー自身がコントロールできる範囲が非常に狭い、ある種の停滞期が続いていたのかもしれません。
●WPAをより良くしていくべきだと考え続けてきた人物
――なるほど。そんな時代を経て、会長がイショーン・シン氏に変わりました。
平岡:シン氏は、WPA内部でアンダーソン氏の下で長年活動されてきた方です。突然現れたわけではなく、アンダーソン氏の側近のような立場で共に仕事をしてきました。そのため、会長就任当初は一部のプレイヤーから「結局同じではないか」という見方をされ、信頼を得るのに時間がかかったかもしれません。しかし、ここ数年の彼のリーダーシップの下で、WPAは徐々に改善の兆しを見せており、信頼も回復しつつあるというのが現状ではないでしょうか。
――プール界も活気を取り戻し、ヘイボール(チャイニーズエイトボール)もWPAの傘下に入り、ワールドゲームズの種目にもなっていますね。
平岡:そうですね。シン氏の手腕については現在も見守っている段階ですが、彼は非常にコミュニケーション能力が高く、様々な状況を理解し、法的な側面にも精通している、有能なリーダーだと感じています。アンダーソン氏の下で働きながら、WPAをより良い方向へ導くべきだと考え続けてきた人物なのではないでしょうか。

写真左がシン氏、右端がプレデターのカリム・ベルハジCEO
――では、今は良い方向に進んでいると見てよろしいでしょうか。
平岡:以前と比較すれば改善は見られますが、まだ課題も残っていると感じています。WPAは傘下の連盟を統括する立場ですが、各大陸連盟がある程度の自治権を持っているという側面もあります。昨年、ACBSがwnt.に参加したプレイヤーにペナルティを課した件などは、プレイヤーが不利益を被る措置であり、WPAがこれを容認している状況は、本来あるべき姿とはまだ距離があるように思います。
次回は、WPAとの関係性は模索が続くものの、今年も活発にランキングイベントを開催し、ワールドプールシーンを盛り上げているwnt.に関する平岡氏の見解を語っていただきます。