ジャパンプールの現状認識とwnt.との関係修復
WPAヨルゲン・サンドマン氏独占インタビュー【連載 第3回】

WPAスポーツディレクター、ヨルゲン・サンドマン氏への独占インタビュー第3回は、JPBA・NBAとのミーティングでサンドマン氏が認識したジャパンプールの現状と、その再生に向けたサンドマン氏の考えを伺った。全日本選手権やジャパンオープンの現状への懸念、スポンサーシップの可能性、そして世界選手権の出場枠問題。さらに、長らく対立関係にあったwnt.との関係修復の経緯までを語っていただいた。
第1回:日本のビリヤード界への熱い視線とWPAの現在地
第2回:激動の会長時代と組織運営の舞台裏
日本のビリヤード界の現状と再生への道
――なるほど、非常に興味深いお話ありがとうございます。では、先日行われた『日本プロポケットビリヤード連盟』(JPBA)および『公益社団法人 日本ビリヤード協会』(NBA)とのミーティングについてお伺いします。まずJPBAとのミーティングではどのような点が主な議題となったのでしょうか。
S:まず個人的には、70年代〜90年代の日本のプールは全盛期であり、映画『ハスラー2』の後は、ほぼ毎日のように新しいビリヤード場がオープンするという、とてつもないブームを経験したと見ています。全日本選手権は、私の知る限り世界で最も長く続いているイベントですが、もはやかつての姿ではありません。私がWPA理事会に戻った今、ここ日本での私たちのスポーツの現状がどうなっているのかには非常に興味があります。日本は、奥村(健・ナインボール世界王者)、高橋(邦彦・ナインボール世界王者)、小林(伸明・スリークッション世界選手権王者)といった素晴らしい選手たち、そしてその他多くの男女の選手を輩出してきました。日本を再び世界のプールの最前線、あるいはビリヤード全体において、そのような地位に戻すために私たちに何ができるでしょうか? おそらく、何ができるかについていくつかの答えは今回のミーティングで見つかったと思いますし、それは未来が教えてくれるでしょう。
――日本のビリヤード界が再び世界のトップレベルに返り咲くための具体的な方策について話し合われたのですね。
S:私自身が最も聞きたかったのは、JPBAが将来日本のビリヤード界に何が起こるのかを見据えているのか、ということでした。日本のプール、あるいはJPBAは現在、少々停滞していると理解しています。これは受け入れ難い状況で、変化が必要です。ですから、JPBAが将来をどのように捉え、何を達成しようとしているのか、そして現状をどう考えているのか、その答えを見つけようとしていました。
――日本のビリヤード界の将来像について、JPBA側の考えを聞きたかったということですね。
S:ええ。また、全日本選手権のような、かつては世界でも有数の非常に格式の高い大会が、近年では期待されるほどの賞金額ではなくなり、世界のトップアスリートがこぞって参加するような大会ではなくなってしまった現状を非常に残念に思っている、ということも伝えました。
――全日本選手権の現状に対する懸念も伝えられたのですね。
S:かつてWPAがイベントを運営していた頃のスポンサーシップはそれほど大きなものではありませんでしたが、ここ数年で状況は大きく変わりました。今では非常に高額な賞金が出るトーナメントも珍しくありません。そして、その資金の多くはビリヤード業界から出ています。つまり、ビリヤード業界自体は非常に好調で、全日本選手権のような大会にスポンサーが付く余裕はあるはずなのではと思います。ジャパンオープンについても、私は2年前までその存在を知りませんでしたが、これもまた歴史のある大会だと聞いています。いずれにせよ、特に全日本選手権のような大会は、スポンサーシップにとって魅力的なはずです。私はJPBAがどのように運営されているのか、またどのような制約の下で活動しているのかについて、当然ながら何の知識も持っていません。もしかすると、彼らが「より少ない選択肢」で妥協せざるを得ない正当な理由があるのかもしれません。しかし、残念ながらごくわずかなもので満足しているように見えます。それが、私が本当に話したかったことでした。
――例えばジャパンオープンは、最盛期には600名以上が参加していました。
S:ジャパンオープンは600人ですか? それは本当に大きなトーナメントですね。様々な会場で予選を行い、最終的に男女24人が特設会場で本戦トーナメントを行うという形でしたよね。私が以前参加したジャパンオープンも最初のステージがありましたが、600人というのは……本当に驚きです。

男女計600名以上が出場した2009年のジャパンオープン
――今回のミーティングでは日本の大会のスポンサーシップについても議論があったのですね。サンドマンさんと日本のビリヤード界との関係は深いものがあると感じます。
S:ミーティングでお会いした浪江(隆・JPBA会長)さんとは、藤間さんほどではありませんが旧知の仲ですし、齋藤健悟(JPBA理事長)さんは選手としてよく知っています。岡田(將輝・JPBA副理事長)さんとは今回初めてお会いしました。彼も選手としての経歴があるそうですが、選手としての彼を私は存じ上げませんでした。どんな理由であれ、私はこれまで出会った日本の皆さんと非常に良い関係を築いてきました。それは私にとって、世界の他のどの国よりも日本と強く結びついていることを意味します。なぜかは分かりませんが、感情的なものなのでしょう。日本人との交流は常に非常にうまくいっています。
――JPBA側からは他にどのような議題が出たのでしょうか。
S:JPBA側からも議題はありました。WPAとマッチルームとの間の最近の合意について、一時的にWPAのイベントに参加資格がなかった選手たちが、今後は罰則なしに参加できるようになるのか、そしてナショナルフェデレーションへの罰金を支払う必要がなくなるのか、といった点を確認したいとのことでした。また、全日本選手権とジャパンオープンの日程が他のイベントと衝突しないように保護できないかという質問もありましたが、残念ながらこれら2つのトーナメントの規模を考えるとそれは不可能だと伝えました。もし他に非常に大きなイベントがあれば、WPAとしてはそちらを優先します。例えば、ジャパンオープンは過去2年間チャイナオープンと日程が重なっています。チャイナオープンは非常に大きな大会ですから。

JPBAの浪江隆会長(写真右奥)、齋藤健悟理事長(左奥)、岡田將輝副理事長(左手前)と意見交換
――世界選手権の出場枠についても話し合われたと聞きました。
S:ええ。日本(JPBA)にもっと多くの枠を与え、より多くの選手を推薦できるようにしてほしいという要望がありました。これも理解できますが、これはまずWPAとプロモーターとの間の交渉事項です。WPAランキング上位者、WPAメンバー(各大陸連盟)、主催者枠、そしてワイルドカードという形で枠が割り当てられます。例えば、メンバーへの割り当てが40枠あったとして、ヨーロッパとアジアが最重要だとすると、それぞれ14枠か12枠ずつになるかもしれません。EPBFには40の加盟国があり、ACBSは34程度です。ですから、全ての国が1枠ずつ得られるわけではありませんし、ましてや2枠や3枠は困難です。ランキング制度があればそれに従いますが、アジアにはそれがありません。そのため、国の強さなどを考慮して枠を配分しています。日本は間違いなく1枠は得られますが、おそらくそれ以上は難しいでしょう。
――世界選手権への参加機会均等という点では、WPAとしてどのようなお考えをお持ちですか?
S:彼らからはまた、世界選手権であれば全ての国に参加資格があるべきだという提案がありました。その点については完全に同意します。私がWPA会長だった頃、ステージ1とステージ2というシステムを導入しました。ステージ1では全ての国が1人の選手を参加させることができ、そこで競い合い、勝ち上がった選手がステージ2に進みます。ステージ2では世界ランキング上位者が加わります。これにより、全ての国に参加機会を与えつつ、大会の質も保つことができます。このシステムを1998年に初めて実施しましたが、私が退任した後はなぜか行われなくなってしまいました。
WPAとwnt.(マッチルーム)の対立と協力関係の再構築
――2023年から続いていたwnt.とWPAの対立についてはどのように認識されていますか?
S:1999年にマッチルーム(以下、MR)およびバリー・ハーン氏と契約を結んだのは私であり、この時MRはWPAと共にプロフェッショナルプールの最初のプロモーターとなりました。私の理解では、MRとの協力関係は2012年頃から2018~19年頃まで中断し、その後WPAとMRの間で新たな契約が結ばれ、再びMRは『WPA男子ナインボール世界選手権』や、モスコーニカップ、ワールドカップオブプール、ワールドプールマスターズといった他のいくつかのプロイベントを毎年プロモートするようになりました。そしてMRはUSオープンやUKオープンの権利も取得しました。
――その後、再び関係が悪化したのですね。
S:当然ながら、MRもパンデミック中は活動を休止せざるを得ず、MRの指導体制にも変化がありました。パンデミックが収束し、活動が再開されると、MRはもはやWPAとの協力に関心を示さなくなり、その時からMRは自社イベントのWPAによる公認を拒否するようになりました。確かなことは分かりませんが、WPAとMRの間のWPA男子ナインボール世界選手権に関する新たな契約が、MRがWPAとの協力関係から離脱するために必要だと感じていた全てをMRに与えたのではないかと推測します。
――その後のWPAとマッチルームの関係修復の経緯について教えてください。
S:私は当時の新たな展開には関与していなかったため、MRがWPAから距離を置く決断を下した原因となった他の詳細があったかどうかは分かりません。ご存知の通り、WPAとMRの間ではかなりの期間、再び話し合いが持たれていました。ちょうど2週間ほど前(5月7日)、共同プレスリリースで両者は新たな協力関係が始まったことを発表しました。MRが主催・プロモートする全てのワールドナインボールツアーのイベントは、WPAによって承認され、全ての選手が参加可能となります。

UKオープンはWPA公認のwnt.メジャーとして開催された(写真提供:Matchroom Pool)
――サンドマンさんがWPAの事務局長だった当時、マッチルームと直接コミュニケーションを取られていたのですか?
S:はい、何度かありました。WPA理事会およびWPA実行委員会の一員として、もちろんMRとの全ての交渉に関わってきました。両者の会議にも参加しており、そのためハーン氏と再び挨拶を交わす機会もありました。
――昨年は「ナインボール世界選手権」の権利問題が訴訟に発展するとの報道がありました。
S:噂は常に飛び交うものであり、個人的には、ほとんどの場合、噂は噂に過ぎず、実際に起こっていることとはほとんど、あるいは全く関係がないことを非常に嬉しく思っています。WPAがボスニア・ヘルツェゴビナでのヨーロピアンオープンとUKオープンの両方を公認することを決定した理由は、当時の交渉が進行中であったことと関係があります。善意を示し、参加が認められるかどうか分からないという選手の不安を軽減するために、私たちは承認を決定しました。そしてご存知の通り、WPAとMRの間の交渉は成功裏に妥結しました。ハノイオープン、そしてその後の台湾オープンへの参加を理由にライセンスを停止され、WPAイベントへの参加資格を失っていた全ての選手は、再び全てのトーナメントに参加できるようになりました(以下、第4回に続く)。