トッププロとの二人三脚が生む安定と進化
Naollyに聞くジャパンタップの世界〜第3回:Naollyタップ開発の流儀~

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トッププレイヤーの厳しい要求に応え、常に進化を続けるタップ。その開発現場では、どのような試行錯誤が繰り返されているのだろうか。第3回は、Naollyタップ開発における梅田竜二プロと井上直美代表の二人三脚に迫る。梅田プロからのミリ単位のフィードバック、それを形にする井上代表のこだわり、そして徹底した製品安定性の追求。Naollyタップがトッププロからアマチュアまで多くのプレイヤーに支持される理由を探る。
第1回:トッププロが語るタップの真実
第2回:タップの構造と素材の秘密
●タップ性能を理解しているからこそのフィードバック
――Naollyタップの開発は、梅田プロのフィードバックが非常に重要になっているようですね。具体的に、梅田プロからはどのようなフィードバックがあるのでしょうか?
梅田:「これは硬すぎる」「これはキューミスする。この部分でミスした」といった具体的な指摘ですね。革自体の質は高いので、主にボンド(接着剤)と硬さの調整、そして全体のプレスの仕方などがフィードバックの中心になります。例えば、8枚重ねのタップの場合、特定の層の革が硬すぎるとか、柔らかすぎるとか、そういう細かな点をリクエストします。
井上:そのフィードバックを受けて、会社に持ち帰り「どうしようか?」と試行錯誤します。「こうしてみようか? ああしてみようか?」「プレスの秒数を変えてみようか?」といった具合に、レシピを調整していく訳です。
梅田:僕は感覚で「こうじゃないかな?」と伝えます。それで良かれと思って作ってもらっても「やっぱりダメだった」となることも多い。それをひたすら繰り返していく。まるで料理のレシピ開発のようですよ。「塩が少し強いかな?」といった微妙な調整を重ねていく感じです。

――梅田プロは長年の経験から、単なる好みだけでなく、タップとしてどうあるべきかという客観的な視点もお持ちだからこそ、的確なフィードバックができるのでしょうね。
井上:本当に、そこまで細かくタップの性能を理解してフィードバックできる方は、世界でも数えるほどしかいないと思います。他のプレイヤーに試してもらっても、「良い」か「悪い」か、くらいしか返ってこないことが多いんです。「何がどう良いのか」「何がどうダメなのか」という具体的な答えが欲しいのですが、梅田さんはそれを的確に言語化してくれます。
――梅田プロのその鋭い感覚は、どのように養われたのでしょうか? やはり試合での経験が大きいですか?
梅田:試合でテストすることは非常に重要です。普段のリラックスした状態と、試合での真剣な状態とでは、タップの感じ方も変わってきますから。さすがに全日本選手権のような大きな大会ではできませんが、他の試合では、実は新しいタップをテストしていることもありますよ。2日前に新しいタップに変えて、「これが本当に良いのかどうか、試合で試してみないと分からない」という感じで臨むこともあります。
井上:本当に、試合の直前にタップを変えたりするんです(笑)。
――それはすごいですね! ライダーとしての責任感も感じます。
梅田:年間10試合以上ありますから、1つか2つはテストに充てないと。自分の感覚が本当に正しいのか、このタップが自分に合っているのか、試合という極限の状況で確かめる必要があります。キューも同じで、常にテストしています。
●一番「撞いていて楽しい」タップ
――Naollyタップは、そうしたトッププロとの綿密なやり取りを経て開発されている訳ですね。製品として一番こだわっている点は何でしょうか?
井上:一番は「安定性」です。プレイヤーにいつ使っても同じ性能、同じクオリティを提供できること。タップは天然素材なので、どうしても個体差が出てしまいがちですが、そのブレを最小限に抑える努力をしています。「このタップは当たりだったけど、次のロットはハズレだった」ということがないように、常に安定した品質を保つこと。それがNaollyの一番のこだわりであり、信頼につながると考えています。

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――その安定性を実現するために、膨大なテストとデータ蓄積があるわけですね。
井上:はい。例えば、硬さのバリエーションを作る際も、S、M、Hといった大まかなくくりではなく、S2(スーパーソフト)からH2(スーパーハード)まで、非常に細かい段階で試作品を作り、梅田さんにテストしてもらいます。そして、「この硬さはS1とMの中間くらいだね」といったフィードバックをもとに、最終的な硬さのグレーディングを決めていくんです。
梅田:だから、Naollyのタップは、どの硬さでも品質が安定している。僕が今使っているのは黒のHですが、これが今の僕にとっては一番「撞いていて楽しい」タップなんです。
――「楽しい」ですか。
梅田:ええ。自分の技術、感覚と、タップの性能(弾力、滑りにくさ、しなりからの反発、回転のかかり具合など)が一致した時に、撞いていて楽しくなるんです。他のタップを試すこともありますが、結局Naollyに戻ってくる。それは、この「楽しさ」があるからですね。

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――新しいタップが限定発売されるとのことですが、それも楽しみですね。
梅田:そうですね。実は、その新しいタップの原型も、1年以上前からテストしていました。茶色のタップを発売する時点で、既に候補としてはあったんです。
井上:ずっと温めていたんです(笑)。茶色の8枚積層が完成して販売の流れができたので、満を持して、という感じですね。
梅田:これも、僕にとっては非常に「楽しい」タップに仕上がっていると思いますよ。
――それは期待が高まりますね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
梅田・井上:こちらこそありがとうございました。