「モーリ」との出会い、テストの日々と性能の見極め方
Naollyに聞くジャパンタップの世界〜第1回:トッププロが語るタップの真実 〜

スリークッション世界王者で全日本選手権も6度制している梅田竜二プロ
キューの先端に取り付けられた小さな革パーツ「タップ」は、プレイヤーのパフォーマンスを左右する重要なアイテムだが、その性能や選び方などについてはかなりハイレベルのプレイヤーであってもはっきりとわからないことも多い。そこで今回はハイクオリティなジャパンタップ「Naolly」の井上直美代表と、同社のメインアドバイザーを務める、スリークッション世界王者で『日本プロビリヤード連盟』(JPBF)所属の梅田竜二プロにインタビュー。第1回は、梅田プロが若き日に経験した「モーリタップ」開発協力の裏側と、そこから培われたタップ性能の見極め方について語る。
●その革が持つ性能は打感でわかる
――梅田プロはタップについて非常に造詣が深いと伺っていますが、何か特別な経験がおありなのでしょうか?
梅田竜二(以下、梅田):そうですね、かなり前に遡りますが、「Moori Tip」(モーリタップ)が発売される前、開発者の毛利(秀夫)さんと、僕がお世話になっていた島田(暁夫・JPBFプロ)さんが親しかったんです。それで、島田さんのお店に毛利さんがテスト用のタップをたくさん持ってきていて。
――それはいつ頃のお話ですか?
梅田:僕が二十歳の頃ですね。まだタップが現在のような丸い形になる前、四角い革の状態で販売されているタップでした。それを毎日交換してテストしていたんです。「梅田くん、これやっといて」と島田さんに頼まれて。島田さんご自身の仕事もあるのに大変そうでした(笑)。

写真は30年以上前の丸く抜く前のモーリ。これより以前はこの状態で販売されていたこともあるという
――当時からタップテストに関わっていたのですね。
梅田:はい、若い頃からずっとそれをやっていたので、タップの良し悪しというものは、その頃から自然と身についてきた感じですね。
――どれくらいの期間、モーリタップのテストをされていたんですか?
梅田:モーリタップの売れ行きが良くなるまで、ですから……だいたい10年間くらいでしょうか。缶入りで売られていた頃は、まだそれほど売れていなかったので、新しい試作品が出るたびに「これ使ってみて」と渡されて、ずっとテストしていました。
――10年間も! それはすごい経験ですね。その経験を通して、タップの違いや良し悪しを見極める目が養われた訳ですね。具体的にタップの性能を判断する上で、どういったポイントを見ていらっしゃるのでしょうか?
梅田:一番はまず「壊れるか壊れないか」。それから撞いた時の「打感」ですね。打感でその革が持つ性能が大体わかります。
――打感で性能がまでわかるんですか。
梅田:ええ。昔、モーリタップが登場する前は1枚革のタップが主流でしたから、それもたくさんテストしました。その中で「こういう締め方をしたら良くなるんじゃないか?」など、色々試行錯誤しました。何種類も試して、締め方も変えてみて、「これはダメだ」「これは良いな」という判断を繰り返していました。
●スピンボールを撞いた時の手球の回転数
――現在、タップの性能を見極める上で重要視されている点は何でしょうか?
梅田:今は「見越し」と「スピン量」ですね。見越しというのは、撞いた時にシャフトがしなることで発生する手球の横ズレのことですが、これは人によって感じ方や捉え方が様々なんです。僕はアダムの古いキューとノーマルシャフトでビリヤードを覚えたので、見越しが出るのが当たり前でした。だから、逆に見越しが出ないと撞きづらいと感じてしまいます。

梅田プロはNaolly渾身のニュータップ「CREST」の開発にも当初から携わってきた
――最近はハイテクシャフトが主流になり、見越しが少ないものが増えていますね。
梅田:そうですね。ですから、今のタップ性能を見る上では、スピン量がどれくらいかが重要になります。マックスのヒネリを加えた時や、トップスピン、バックスピンをかけた時に、どれくらいの回転数が得られるか。ある程度の回転数はどのタップでも出ますが、それ以上の性能、特に質の高い回転が出るかどうかを見極めます。モーリタップが良い状態の時は、本当に素晴らしい回転性能でした。当時の他のメーカーは、なかなかそこまでのレベルには達していなかったと思います。それは、毛利さんのところに、たまたま非常に良い革が手に入っていたという幸運もあったかもしれません。
――回転数というのは、具体的にどのように判断されるのですか?
梅田:スピンボールを撞いて、手球の回転の様子を見れば大体わかります。自分の手応えと、実際の回転量を比較するんです。「これくらいの感覚で撞いたら、これくらい回転するはずだ」という予測に対して、実際の回転が多ければ「良いタップ」、少なければ「いまひとつ」、予測通りなら「普通」といった具合に、自分の中で評価しています。
次回はNaolly代表の井上さんにも加わっていただきながら、タップの構造や素材、また、タップ性能を左右するパーツや材料のことなどを伺っていきます。