喜島安広が挑戦者・山﨑洋平を退け6連続防衛達成
第64期名人戦 名人位決定戦@埼玉・セスパ東大宮

喜島はこれで通算8期在位となった
アマチュアによる22年ぶりの男子ジャパンオープン制覇に沸いた9月。興奮の余韻がまだ冷めやらぬ中、沈黙していた秋がようやく重い腰を上げはじめた9月21日(日)、埼玉の「セスパ東大宮」にて、第24期名人位決定戦がおこなわれた。
アマ連(JAPA)個人タイトルの中で最も長い歴史を持ち、連盟員なら誰しも一度は手にしたい至高の称号、それが名人位だ。だが2018年以降、その優勝トロフィーは埼玉の地から動いていない。昨期まで5連続防衛を続ける喜島安広が最強のラスボスであり続けているからだ。そしてその防衛戦の歴史は広島の大坪和史との死闘の記録と言っても過言ではない。

会場となった『セスパ東大宮』
第40期名人位の大坪は、今期まで6度の喜島の防衛戦において3度挑戦者として登場したもののタイトル奪還には到らなかった。ちなみに3度の戦いでは大坪が毎回3セット以上取る大接戦だった。しかも2021年の第60期は挑戦者になったものの自らの体調不良を理由に挑戦権を辞退しているから、実質的には6回中4度挑戦者になっていたわけだ。
そして第61期の大坪はA級勝者最終まで進んだものの、滋賀の林秀忠に連敗して埼玉には行けず。つまりラスボスである現名人を倒す前には、まず同じくらい強力な大坪を倒すことが挑戦権を得る大前提なわけだ。
8月におこなわれた挑戦者を決めるA級戦、その大坪に勝者3回戦と敗者最終で2度勝ったのが、プレ国体3連覇の大看板を持つ愛知の島田隆嗣だ。しかしその島田に勝者最終で勝ち、決勝で負けたもののプレーオフで再び勝利して挑戦権を掴んだのが北海道の山﨑洋平だ。

試合前に握手を交わす両者
山﨑は連盟員ではないが、特筆すべきはアマチュアとして出られる大会のほとんどに名前があると言っても過言ではないくらいの試合出場数の多さだ。身近な例で申し訳ないが、筆者は8月31日のグランプリイースト第4戦東北予選(青森)から、マスターズ(大阪)、ジャパンオープン(東京)、名人位決定戦(埼玉)と取材してきたのだが、その全てで山﨑と顔を合わせている。こんなアマチュア、ちょっといない。


挑戦者の応援旗と応援団
戦前の正直な下馬評では、アマローテA級優勝経験者でもある島田が勝ち上がった方が名人位奪取のチャンスは高かったのではないか、という声が多かった。しかし、ローテーション300点の5セット先取という、よほどのワンサイドになっても5時間は越えるという長丁場の戦いで、山﨑はその豊富な試合経験を遺憾なく発揮して普段通りの球撞きを披露してみせた。
第2セットはブレイクからAハイラン(続くブレイクはノーイン)するなど、第4セットまでを2-2のタイスコアで終えてみせた。観戦する側から見ても、展開は全くの五分。そして続く第5セットは喜島の110-10でスタートしたもののやはりもつれて251-229で第5ラックに突入だ。

試合前半、山﨑が最強の名人に対して互角の展開を見せる
ちなみに300点ゲームだから、最短で3ラック、最長が5ラックになる。第5ラックは最終盤、293-257の⑪で喜島がポジション出来ずにオープン。取り切ればもちろん山﨑の勝ち。しかし、周囲からはイージーに見えた配置で、山﨑は⑫へのポジションをミスしてしまい、喜島がセットカウントを3-2に。この時点で喜島にリードを許したものの、山﨑はまだまだ勝てるチャンスがあると手応えを感じていた。
確かにこの日の喜島は調子が良さそうには見えず、対戦者である山﨑はより強くそのことを感じていたのだろう。続く第6セット、244-236で再び第5ラックへ。ちなみにこの日ここまで、第4セットを喜島が165点の第4ラックで終えた以外、残り5セットは全て第5ラックに突入している。
そしてこのラック、山﨑のノーインから喜島がロングの①をミス。ここから⑧まで入れ繋いで244-264とした山﨑だったが⑨でまさかのミス。だがこれが隠れて喜島がファウル。山﨑は手球センターをコール、そして……この⑨を再びとばしてしまう。

なかなか波に乗れなかった喜島だが第6セットを取って4-2とする
センターショットをミスしていてはローテーションでは勝てない。ゲームの山場で犯した山﨑の致命的な3つのミス。百戦錬磨の山﨑も、この名人戦という舞台のプレッシャーに震えてしまったということなのか。このセットを喜島が取ってリーチ。第7セットまで来て喜島もようやく余裕が出たのかぐんぐんキューが伸び、この日最短の山﨑39点、第3ラックでゲームセット。
これで喜島は6期連続で名人位防衛に成功し、第1~8期名人位、藤間一男の記録に通算で並んだことになる(名人戦の歴史についてはこちらから)。来期の防衛に成功すれば、もちろん単独1位となるわけだ。


喜島の応援旗と応援団
余談になるが、ジャパンオープンを制した現球聖位と喜島はまだタイトル戦の舞台でキューを交えたことがない。果たしてその舞台は球聖戦になるのか、それとも名人戦になるのか。一人のビリヤードファンとしてはいつかそんな頂上決戦が実現する日を楽しみに待ちたいと思う。
次のアマチュア全国大会は、10月第一週に青森で開催される「全国アマチュアビリヤード都道府県選手権」だ。そう、その頃には日本中どこも涼しくなっているはずだ。
On the hill!
大会アーカイブ動画:japa _Billiards