ジャパンプールが世界最高の舞台の一つであるために
WPAヨルゲン・サンドマン氏独占インタビュー【連載 第4回】

WPAスポーツディレクター、ヨルゲン・サンドマン氏への独占インタビューの最終回となる今回は、アジアンプールの統括団体ACBSとWPA、ジャパンプールの関係性とNBAとのミーティングで語られたことを中心に、マッチルームとの対立から生じたプレイヤーや関係者の決断に関する独自の視点、さらには改めて氏が望むジャパンプールのあり方までを熱く語っていただいた。
第1回:日本のビリヤード界への熱い視線とWPAの現在地
第2回:激動の会長時代と組織運営の舞台裏
第3回:ジャパンプールの現状認識とwnt.との関係修復
WPAとACBSの関係性とコミュニケーション
――WPAは2023年にACBSがベトナム人選手に対して課した出場停止その他の措置を認識していましたか? また、ACBSのアプローチは少々強引であり、プール統括組織としての機能が十分ではない側面もあると思えるのですが、WPAは指導や助言を行っていましたか?
S:はい、当時ACBSによるベトナムビリヤード&スヌーカー連盟の出場停止については知らされていました。この出場停止は今もWCBSによって継続されており、もはやプールのみに基づくものではありません。しかし私の認識が間違っているかもしれませんが、ベトナム人選手はACBS管轄下のアジアイベント以外のものから出場停止にされたとは思いません。彼らは世界の他の地域で開催される国際イベントや、WPA管轄下のアジアでの国際イベントには引き続き参加できました。
――ACBSの運営方法について、WPAとして何か思うところはありますか?
S:ACBSが時折、強引と受け取られかねない行動を取ったことがあるのは事実だと思います。私はACBSの規約、規則、規定の専門家ではありませんが、ACBSが行動を起こす理由があった場合、それは彼らの規則が破られたためであると確信しています。規則は多くの理由で設けられていますが、主にはスポーツ、その価値、そして活動的な競技者を保護するための一定の秩序を作るためです。違反には結果が伴わなければならず、ほとんどの場合、懲戒処分や警告で十分です。違反の重大度によっては、それでは不十分な場合もあります。ACBSが過剰反応した可能性があるかどうかについて意見を述べる立場にはありません。それは何よりもACBSのメンバーが検討すべきことであり、同様に私たちのメンバーも私たちが問題をどのように扱っているかを注視しています。
――WPAとACBSの関係性についてはいかがでしょうか。
S:WPAは各大陸のメンバーと常に協議しており、常に意見が一致するとは限りません。しかし、私たちは皆、私たちのスポーツとその実践者にとって最善だと感じることを行うよう最善を尽くしています。何が正しかったかは、時として未来だけが教えてくれるでしょう。
ジャパンプールが世界最高の舞台の一つであるために
――では改めて日本の現状を踏まえた上で、NBA/JPBAとWPAの関係について、サンドマン氏はどのようにお考えですか?
S:日本プールが『不振』にあるかどうかはわかりませんが、WPAランキングを一見すると、日本にも今日、非常に優れた成績を収めている選手が何人かいることがわかります。JPBAが主催する国際イベントがかつてのような地位を享受していないという事実は承知しており、これについては非常に残念に思っています。ジャパンオープンと全日本選手権は、世界で最も権威のあるイベントの最前線にあるべきです。NBAおよびJPBAの下で、日本は80年代後半にWPAが設立された際に非常に重要な役割を果たしましたし、個人的には日本のプールが繁栄し続け、世界が注目するイベントの開催地であり続けることを望んでいます。もし実際にここ日本でプールが不振に陥っているとすれば、再び世界からの注目を集めるためにできることをするのはWPAの義務でもあると考えています。

今年の全日本選手権は男女ともにWPAランキング対象試合となっている
――WPAとして、日本のビリヤード界の現状をどのように把握し、どのような支援を考えていますか?
S:繰り返しになりますが、これが私が今日本を訪問している非常に重要な理由です。WPAは、日本の私たちのスポーツに関する現状を理解し、私たちがどのように支援できるかについて情報に基づいた評価を下せるようになる必要があります。しかし、これが双方向で機能し、NBAとJPBAが、関連するアマチュア団体と共に、日本国内だけでなく国境外でもプールの振興においてWPAを支援してくれることを願っています。ご存知の通り、WPAには6つのメンバーがいます。アフリカ、アジア、ヨーロッパ、北米、オセアニア、南米のプールを管轄する大陸連盟です。これは、WPAが直接国内連盟とやり取りすることはそれほど多くないことを意味します。したがって私の日本訪問とNBAおよびJPBAとの会議は例外的なものですが、WPAとNBA/JPBAの関係は非常に良好であると信じられない理由はありません。
――日本訪問中に助言された、ジャパンプールを再活性化するための何か方策はありますか?
S:私たちの話し合いをきっかけに、共にジャパンプールのイメージを本来あるべきレベルにまで引き上げることができるようになることを願っています。日本は美しい国であり、多くの人口を抱え、また世界の主要国の一つでもあります。私たちのスポーツがここでも最高レベルにない理由はありませんし、これが実現されるようにするのは私たちの共通の課題です。
――NBAとのミーティングは、JPBAとのミーティングと同様の内容だったのでしょうか。
S:私の視点からは、JPBAとのミーティングと基本的には同じでした。ただ、もちろんNBA側からも独自の質問があり、それに対する答えを求めていました。似たような質問もありましたが、少し違う点もありましたね。NBAがどのように設立されたのか、そしてNBAが様々な団体を統括するアンブレラ組織であるという説明を受けました。

5月19日にNBAを表敬訪問。写真左から久慈薫監事、平岡正人氏、サンドマン氏、南部利文理事長、前田義孝専務理事、石川一郎理事
――その他にはどのような話をされたのでしょうか。
S:NBAからはWPAのために何ができるかという質問もありました。それについて私たちは教育について話しをしました。例えば、アスリートの教育です。アンチドーピングのルールや規約は非常に良い出発点になるでしょうし、コーチや審判の教育なども同様です。ここではもちろん、NBAがWPAを支援することができます。おおよそそのような内容でした。その他にはやはり、WPAとマッチルームとの間の最近の合意についての話題が出ました。一時的にWPAのイベントに参加資格がなかった全てのプレイヤーが、今後はさらなる罰則なしに参加できるようになるのか、そして彼らは実際には、もはやナショナルフェデレーションに罰金を支払う必要もなくなったのか、ということも議題として上がっていました。
――やはり日本の選手たちのWPAイベントへの参加資格や罰金の件は関心事ですからね。今回の件、選手達や関係者の意思決定プロセスについて、何かお考えはありますか?
S:選手自身もそうですが、そこに関わる人々にとって、WPAとマッチルームに関する一連の事態に対して決断を下すことはかなり困難であったと思います。しかし、道を歩いていて、突然分かれ道に出くわしてしまったら、右に曲がるか左に曲がるかを考え、そして決断を下さなければなりません。それが人生です。そして、全てのアスリートがどのような選択をしたにせよ、それぞれが最善と思われる道を慎重に考え抜いた上で決断したのだと、私は確信しています。未来にならなければ正解はわからなかったわけですが、幸いにもWPAとマッチルームは協力のための共通の基盤を見出すことができ、今では再びすべての人々がひとつの「家族」として集うことができました。
――では、WPA、ACBS、そしてNBAの組織間コミュニケーションについてはどうお考えでしょうか。
S:まず、WPAとNBAやJPBAは直接コミュニケーションを取るべきではない、というのがWPAの規則です。私たちはアジアのメンバーであるACBSとコミュニケーションを取り、彼らがさらに各団体と連絡を取る形になります。しかし、今回私が日本に来たのは表敬訪問であり、WPAからの重要なメッセージを伝えるためではありません。私の好奇心を満たすため、なぜ今の日本はかつての日本のようになっていないのか、それを知りたかったのです。JPBAやNBAが直接WPAに連絡を取る場合、もちろん返答は得られますが、ACBSにもその内容は共有されます。しかし、ACBSがすぐにメンバーとコミュニケーションを取るかどうかは保証できません。

『WPA Heyball U19 World Championship 2025』のオープニングで挨拶をするサンドマン氏
――最後に、近年WPAにヘイボールが加わり、中国開催のワールドゲームズに正式種目として採用されたりもしていますが、長年推し進めているビリヤードのオリンピックへの参加ついて、WCBSの理事のお一人として現状と今後の見通しをお聞かせいただけますか?
S:この問題について私は常に、残念ながら私たち自身が最大の障害であると述べてきました。私が覚えている限り、1968年からずっと、私たちが決して持っていなかったものが一つだけあります。それは「真の協力」です。常に、こちらに行くべきだという人々と、あちらに行くべきだという人々がいて、誰もが自分のスープを調理しているのです。そしてそれが続く限り、オリンピックは……なかなか遠い道のりでしょう。
――ビリヤード界全体の協力体制が不可欠だと。
S:そうです。今回のミーティングでは、WPAがNBAにどのような要求をする可能性があるかという質問もありましたが、それは私が最初に始めたところに戻ります。私が望むのは、日本が再びかつてのような、世界の最高の選手たちのための拠点になることです。そしてまた、主要なイベントと見なされるトーナメントが開催される場所になることです。それが私が見たいものであり、それはWPAにとっても同じだと確信しています。そしてそれが私たちが望む唯一のことなのです。
――本日は長時間にわたり、貴重なお話をありがとうございました。
S:こちらこそありがとうございました。