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スヌーカーの貴公子・神箸渓心が優勝!

2022.05.17

2022西日本グランプリ第1戦@ダマデノッチェ

5月15日(日)に愛知県東海市の『ダマデノッチェ』(予選は県内複数店舗併用)において『西日本グランプリ第1戦』が開催された。ダマデノッチェとはスペイン語で『月下美人』の意を表す言葉で、1985年創業のオシャレなプールバーの面影を残す9台のポケットテーブルを置くビリヤード場だ。フォーマットはナインボールの交互ブレイク8先(ベスト16以降は7先)。結論から先に入ると、この日の主役は若干21歳のアマチュア選手である神箸渓心だった。

会場『ダマデノッチェ』

スヌーカーで本格的な海外修行や海外遠征を重ねる神箸。彼を安易に『アマチュア』のカテゴリーに括ることにやや抵抗はあるが、西日本グランプリでプロ以外の選手が優勝をするのは、グランプリの前身である『西日本プロツアー』で2001年に広島の大坪和史アマが制して以来、実に21年ぶりの快挙で、神箸はゼロ歳児だっという計算になる。

神箸はこの日、6試合のすべてを現役のプロと戦い、得ラック44に対して失ったラックは18という数字で強さを示した。しかも全員が彼が生まれる前からビリヤードをしていたというから、神箸の若さと同時にビリヤードの選手生命の長さもあらためて感じるところ。ちなみに西日本グランプリで平成生まれの選手が優勝したのも今回が初めてのことだ。そして神箸がプロをなぎ倒していく様を見て、準決勝が始まる前だったかに「優勝まであるかも?」といった声がプロの間からも出ていた。

3位タイ:黒田祐介

準決勝で今なお成長を感じさせる黒田祐介を倒した神箸の最後の相手はサムライ・竹中寛。周知の通り、若きアマチュアが駆け上がった先に立ちはだかる『ラスボス』として申し分ない実績と実力を備えている。セミファイナルでは川端聡とのベテラン優勝候補対決を制してのファイナル進出を果たした。

3位タイ:川端聡

ファイナル、サムライ・竹中との戦い

序盤から竹中に2度ほど「らしくない」シュートミスが出たものの、ルーティンを崩さない神箸の安定感が光る格好で、3-1と序盤でリードを奪うと6-3のスコアで王手をかける。この土俵際から竹中がトッププロの真骨頂を発揮し技術と気迫が噛み合うパーフェクトプレーを披露して試合は遂に6-6のヒルヒルへと突入した。

最終ラックは神箸のブレイクで、1個インながらヒルヒルにありがちな難解な配置となる。プッシュアウトからセーフティ、空クッション、キャノンショットなど一球入魂の攻防を経てチャンスを得たのは神箸だった。ただしテーブル上には8個の的球があり、決勝戦のラストラックだけにいつ「何か」が起こってもおかしくないシチュエーションだ。

準優勝:竹中寛

これを慎重に取り切った神箸に対して大きな拍手が沸き起こった。表彰式後も残っていたプロたちは各々に神箸に歩み寄り「おめでとう」「(スヌーカーでの活動を)応援してる」といった声をかけていたことが印象的だった。振り返ってみれば、この日は「アマチュアにタイトルを獲られてはいけない」といった焦りや意地のような空気もなかった。

優勝:神箸渓心

プロであれば誰もが頂点を目指し、そして賞金を獲りにきている。しかし神箸の父である神箸久貴が昨年までJPBAのプロ仲間であったことで幼少期から知っている者が少なくなかったことや、スヌーカーに人生を懸けて10代半ばから海外修行と遠征を重ね真摯に取り組んできた姿勢が評価されていたり、温厚で真面目な性格を知られていたりと、神箸の境遇やキャラクターといった部分にいたるまでの様々な要素が、結果として大会全体をスポーツマンシップに長けた爽やかな空気にしていたと感じる。さすがはワールドキュースターを目指す素材といったところだろうか。

左から、3位タイ:黒田祐介、優勝:神箸渓心、準優勝:竹中寛、3位タイ:川端聡

試合後に神箸にコメントを求めると「(直近に)アマナインの予選に出場して、このグランプリにも備えていたので、ポケットの練習はいつもより出来ていて状態は良かったと思います。とはいっても優勝はラッキーでできすぎですけれども(笑)」と、最近はポケットのプレー機会が増えていたことを明かしてくれた。

さらに本業(スヌーカー)について尋ねると「少しずつですが上達を続けられている実感はありますので、これからも挑戦を続けていきます。ここ1~2ヵ月は海外へ行く予定は入っていませんが、遠征に行く意欲も変わってません」とのこと。最後に「映像を見て応援してくれた人たちに向けて」と話を向けると、「いつも応援してくださってありがとうございます。良い報告ができて嬉しいです。これからも頑張りますのでよろしくお願いします」と簡潔にまとめた。気負うことも気取ることもなく爽やかに自分の言葉で話せる21歳。大勢のプロが祝福しエールを贈ることにただただ納得。

Akira TAKATA

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