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過去のニュース(2014年)

2014.06.30 トーナメント

プロの眼から観た世界選手権 Last Day

ARITA's Final Report from QATAR

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優勝はオランダのニールス・フェイエン

CUE'S読者の皆さん、こんにちは。このサイトをご覧になっている方は既にご存知かと思いますが、2014年カタールのドーハで行われた「男子ナインボール世界選手権」はオランダのニールス・フェイエン選手の優勝で幕を閉じました。

今回の現地リポートでは、最終日に行われた準決勝と決勝を実際に目の前で観戦し、感じたことなどをお伝えし、この現地リポートの最終回とさせていただこうと思います。

現地時間6月27日の午後1時30分より、まずは準決勝の2試合が同時に行われました。1つ目の組み合わせは、つい3週間ほど前に行われたチャイナオープンの覇者・張玉龍選手(台湾)とアルビン・オーシャン選手(オーストリア)の対戦。もう1組の対戦は会場の中央に設置されたテレビの中継が入るメインテーブル。そこでの対戦はフェイエン選手とエルマール・ハヤ選手(フィリピン)というカード。

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準優勝はオーストリアのアルビン・オーシャン

僕はこの2つの準決勝のカードのうち、張選手とオーシャン選手の試合を特に注目して観戦していました。というのも、張選手はチャイナオープンを優勝した勢いをそのままに、今回の世界選手権でもベスト16の試合で、過去にナインボール、エイトボールのダブル世界チャンピオンのタイトルを持つ中国の呉選手との対戦を11-10のフルゲームで勝利しただけでなく、続くベスト8の試合ではアメリカのエース格のシェーン・バン・ボーニング選手を11-8で倒してこの日を迎えていました。

その張選手と対するはオーストリアのオーシャン選手。後でわかったのですが女子で有名なジャスミン・オーシャン選手(オーストリア)の弟さんということです。オーシャン選手については、僕が知らないだけでヨーロッパでは有名な選手だったようです。とは言え、世界大会クラスでベスト4まできたのはおそらく初めてだろうし、そんな選手がどういったプレーをするのか興味がありました。

オーシャン選手のブレイクランアウトから始まった試合は、序盤3-0と張選手からリードを奪うものの、さすがと言っていい堅実なプレーが光り張選手がすぐに3-3に追い付きます。その後もお互いにミスの少ない一進一退の展開が続きますが、オーシャン選手が繰り出す上体を動かさないコントロールブレイクが決まりだし、最終的にはオーシャン選手が張選手よりブレイクランアウトの数で上回ったことが11-7という結果に結び付いたように思います。

この試合でオーシャン選手のシュートミスは0、張選手は2。レベルの高さが窺える内容の試合でした。お互いにミスの少ないプレーが対戦相手にとって重くのしかかっていたのでしょう。オーシャン選手が決勝進出を決める9番ボールを入れた瞬間、大きな声とともにガッツポーズをしていたのがとても印象的でした。

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筆者が注目した張選手

その一方、メインのTVテーブルでは会場で一番の声援を受けていたフィリピンのハヤ選手が頑張っています。前回の記事でもお伝えしたように、このハヤ選手はステージ1から勝ち上がってきたノンシードの選手です。彼が突破したステージ1の2nd chanceから数えるとなんと11連勝中でこの大一番を迎えていました。

そういったサクセスストーリーを望む観客の思いも手伝ってか、ヨーロッパの強豪・フェイエン選手に一歩もひかない試合を繰り広げていきます。そんな中、試合展開が大きく傾いたのが、ハヤ選手が7番ボールをポケットに沈め、5-5とする9番ボールにポジションしようとしたゲームでした。

割とオーソドックスな短・長・長の3クッションを使うポジショニングショットでしたが、3クッション目の長クッションに入るはずの手球が無情にもサイドへスクラッチ。スコアは6-4でフェイエン選手のリードとなります。

さらに7-7とできる場面で7番から9番ボールへのポジションが強くなり、難しくなった9番をミス! 回って来た9番ボールは決して易しいとは言えない球でしたが、それを沈めたフェイエン選手はここでガッツポーズ。結局11-7でフェイエン選手が決勝に駒を進め、ヨーロッパ勢同士の決勝戦となりました。

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会場のテレビテーブル

いよいよ2014年のナインボール世界チャンピオンを決める試合が始まります。時刻は現地時間の夕方5時。13点先取となるこの試合は3時間を超える大激戦となりました。お互いに「世界チャンピオン」をかけたプレッシャーからか、スムーズにランアウトという展開にはなりません。

それでもしっかりと確認作業をしたり、置かれた状況での最善のショットを徹底したりとお互いにかかるプレッシャーを跳ね除けてキューを出していきます。スコアも5-5、6-6、7-7といった具合に進み、観客も息を飲む試合展開。

互いに行ききれない痺れる展開の中、ここで1つの転機が訪れました。オーシャン選手のブレイクが、それまでより強めにショットしたように見えましたが、その意志に反するかのようにイリーガルブレイクとなってしまったのです。

そこでチャンスを得たフェイエン選手がしっかりと取り切り、次のブレイクターンもクッションセーフティから主導権を握り9-7でリードを奪いました。その後はオーシャン選手のスコアが並ぶことなく、ついには12-8でリーチ。

オーシャン選手も開き直ったかのようなプレーで3分足らずでのブレイクランアウトを交え、12-10まで追いすがるも、最後はサイドポケット前の5番をクッションから入れにいって痛恨のノータッチファールを犯す。

フリーボールを手にしたフェイエン選手は残り5球を綺麗に取り切り優勝! 感極まったフェイエン選手は涙を流しているように見えました。今回の世界選手権全体を振り返るとステージ1から出場した選手の活躍とそのレベルの高さが際立ちました。

ベスト4まで進んだフィリピンのハヤ選手をはじめ、同じくフィリピンのヨハン・チュア選手、ラミル・ガレゴ選手、レイモンド・ファロン選手などのフィリピン勢ばかりか、JPBA勢で最高成績(9位タイ)となった栗林達プロ、また大井直幸プロもその存在感を十分にアピールしていました。

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JPBA勢最高位は栗林達の9位タイ

それはつまり、ステージ1突破を3名も輩出したJPBA選手のレベルの高さの裏付けと言っていいと思います。しかしながら、うかうかはしていられないこともまた事実です。というのも、特に中東諸国からステージ1にエントリーしていた選手の中には、明らかに10代や20代前半の若い選手も多く見られ、数年後には脅威となることは確実です。

伝統のヨーロッパやアメリカはもちろん、フィリピン、台湾のアジア2大勢力に加え、中東諸国の台頭が世界のレベルを増々押し上げることでしょう。日本人選手も、より一層のレベルアップが要求されることは間違いありません。1人でも多くの日本人選手が海を渡って試合に参戦することが、日本全体のレベルを上げることに繋がるはずです。

難しい英会話や言葉は必要ありません。世界にチャレンジする勇気と、相棒のキューと笑顔があれば何とかなります。そこにはビリヤードを愛する選手ばかりが集まっているのですから。

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同じ選手同士、言葉の壁を超えて理解しあえる

最後にこの場を借りて、今回の世界選手権挑戦に理解をしてくれたスクールの生徒や関係者の皆様、また現地で仲良くしてくれた海外の選手達、そして一緒に参戦したJPBAのメンバーのサポートに改めて感謝致します。

Hideaki ARITA