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過去のニュース(2013年)

2013.04.10 プレイヤー

「球を撞く環境が整った」

Player Pick Up 菅谷慎太郎

水下広之との決勝でゲームボールを沈めた瞬間、菅谷慎太郎の長かった夜に終わりが告げられた。グランプリ初優勝だ。

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菅谷慎太郎。シャツには自身の店『Rising Sun』の文字


菅谷が営む千葉県松戸市のビリヤード場は『Pool & Darts Rising Sun』。試合用のシャツの背中には太陽を纏う。

この日のゲーム内容は、初戦の土方隼斗に始まり、西嶋大策羅立文、水下(ベスト16から順に)と、錚々たる実力者揃いだったが、菅谷は持てる全てのスキル、力で彼らを凌駕した。だからこそ優勝である。

優勝者に話を聞く際、多くの選手から「今日はたまたまラッキーだった」といった類の言葉が第一声として発せられる。謙虚でありたいという気持ちなのか、日本人気質なのか、理由はいくつか考えられるが、聞き手としてはつい5〜10分前まで、鬼気迫る表情や、圧巻のプレーを見せられているだけに、それを素直に受け止めるつもりはほとんどない。

菅谷も例に漏れず、似たような言葉を口に。もう少し具体的に話を聞くと「ブレイクが当たっていた」と振り返る。確かに決勝日の1日を通してノーインやスクラッチはあまり見られず、必然的にマスワリの回数も多かった。

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背中の太陽が眩しい光を放っているかのようだった


決勝前に菅谷が早瀬優治と談笑する中で「マスワリ8連続とか出ないかなー」とふざけて見せた。決勝はすべてがマスワリでこそないものの、水下にほとんどチャンスを与えず一気に6-0(内3回マスワリ)と試合を決めに掛かる。取り出しが難しい形となっても、左手に握られたキューが問題をいとも簡単に解決。傍から見る限り、そう見えた。

優勝したのだから、少なくともこの日に限れば最も卓越した技術を有していたのは菅谷だったと言って間違いない。結果がモノを言うのがプロである。ただし、群雄割拠の参戦者の中で技術の優劣に大きな差がある訳がない。それならば、優勝の要因は次の言葉が最もウエイトを占めていたのだろう。

「球を撞ける環境が整いました」

実際ここ数年、菅谷の姿を決勝日に見かける機会は少なかった。理由は前述の店のことに手一杯で、プロとしての活動に本腰を入れられなかったため。「Rising Sun」を輝かせるための苦労が、自身のプレーに影を落としていた。昨年も試合には出ていたが「徹夜して試合に出ることもあった」という。プロとしてそれが言い訳にはならないことは本人が一番自覚していた。

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太陽は頂点を目指し、繰り返し昇り続ける


だが「信頼して店を任せられる人間が見付かった」ことで、以前ほどの疲労もなく試合に臨めるようになり、心身両面の環境が整った。そして優勝という結果も付いて来た。これからさまざまなトーナメントで再び、菅谷の名を目にする機会が増えて行くことだろう。今や朝日を遮る雲は1つとして存在しない。