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過去のニュース(2013年)

2013.04.23 プレイヤー

苫小牧の「たまちゃん」は『持ってる』!

北海道オープン予選会場のひとコマ

先に本コーナーの記事でもお伝えした通り『第25回北海道オープン』は竹中寛の優勝で幕を下ろした。彼のコメントを交えた記事は明日に掲載予定だが、観る者すべてが『サムライ・ワールド』に引き込まれたファイナルだった。

さて、今日は予選日に苫小牧市の『アサンテ』会場で行われた青木亮二と平口結貴選手の一戦を紹介してみたい。ご存知の通り、青木はジャパンオープンでファイナルを戦った経験もあり、2011年の日本ランキング3位という実績のトッププロ。対する平口選手は今年の『全日本ジュニアナインボール選手権大会』で大会史上初となる女子選手として優勝を遂げたプレイヤー。そんな彼女については次号のCUE'Sでも改めて紹介する予定だ。

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ルール説明を行う小山峰紀プロ(右)。左端は『アサンテ』所属の菅野友紀プロ。アサンテは平口選手のホームでもある


朝一番に行われたこの試合。スタートから軽快にキューと得点を伸ばした平口選手。ゾーンに入ったその状態は「よく入れる女の子」の域ではなかった。それは観戦していた川端聡プロが「僕もあんなに気持ちよくキューを出してみたい」とつぶやいたほど。対する青木はキューが出ない。そして平口選手リードのままゲームは終盤に差し掛かろうとしていた。

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勝敗を分けた配置がこれ。しっかり決めた平口選手だったが......


上の写真は第9ラックの平口選手が見事に決めた9番の配置。これで6-3のスコアで王手をかける場面だったが、手球は無情にも左サイドポケットに吸い込まれた。そしてスコアは5-4に。結果、ここから青木がゲームを掌握して、7-5のスコアでプロの面目を保つことになった。

この1球について青木は「本人にも伝えた」話としてこうコメントした。

「あの場面で入れたことがまず素晴らしい。そしてスクラッチしていなければ、おそらく僕は負けていたでしょう(笑)。でも、スクラッチしていなければ『危なかった』で忘れられてしまう。むしろ直接勝敗につながる1球だから痛さを忘れない。だから撞点を変えても入れられるようになる練習ができる」

そう、平口選手はプレイヤーとして全力で階段を登っている途中。「オープン戦で男子プロに勝ったことがある」という誇りよりも、本人がより高いスキルを身に着けることが何よりの武器となっていくのだ。

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試合終了後の2人。勝敗以上に得たものは大きかった様子


さらに青木は続ける。「今回の経験が世界(ジュニア)選手権の本番より先にできたこともナイス。これで大きな舞台により大きな選手となって臨める」と。

そんな青木自身も成長を続けている。つい最近も前出の川端にクッション(キックショット)を教わり、今回の北海道でも「(キックショットを決めて)ドヤ顔しましたよ」と上達を体感できた様子。現役のプレイヤーは誰もが発展途上。そんな中で敗戦につながった1球は財産となるだろう。

改めて上の配置を見てもらえばわかるだろうが、大きな試合でゲームを決するような場面では、『入れ』に専念しても決して高確率で決められない球。だが青木は彼女が次のステップへ進める素材だと信じたからこそ、この球にヒネリを加えて決められるスキルを身に付けることを望んで伝えたのだ。

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真っ直ぐに撞き進む平口結貴選手。次の目標は世界ジュニアナインボール選手権だ


小さな体から繰り出す大きなストローク。躊躇することなく真っ直ぐにキューを伸ばす様は、まるで彼女が歩んでいる道程を代弁しているかのよう。色んな意味で彼女は『持っている』と感じる。もちろん、彼女に限らずジュニア世代には多くの関係者が期待を寄せ、プロたちも同じフィールドへ来てくれることを心から願っている。

なお敗者側で師匠である小山峰紀プロに敗れて、平口選手の北海道オープン挑戦は終わった。そして試合終了後、挨拶を交わす青木プロと彼女の会話が聞こえてきた。

「明日の決勝会場は来るの?」
「はい。青木さんの応援します」
「じゃあ、アイスクリームおごってあげる」
「あ、フロートがいいです」

改めて大器の片鱗を感じつつ、筆者も後味爽やかに苫小牧を後にした。

Akira TAKATA