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Chapter23 龍の復活

2021.12.09

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作/Donato La Bella 文/渡部嵩大 監修/関浩一

第23話

長い時間の旅から2人は元いた道場へと帰ってきた。龍はまだ目に涙を浮かべていたが、その色はもう闇には染まっておらず、幼い頃と変わらない優しいまなざしをしていた。1人道場に残り、一抹の不安を抱えて待ちわびていた明は、その姿を見て胸をなで下ろした。龍はまだ少し放心している様子で床に座り込んでいたが、 翔は立ち上がらせるために多少強引にでも手を差し伸べた。
「おかえり、相棒」
色々な感情が翔の胸の中を巡っていたが、挨拶は短く一言で済ませた。翔は真っすぐ龍を見つめ、微笑んだ。これで十分だった。

 

 

「2人とも本当によくやった。よくぞ戻ってきてくれた。一番の試練を乗り越えた今、私が教えるべきことはもう何もない。これからは自分の道を自分で決めて進むがいい」
父に、そして師匠に認められた嬉しさに、翔は威勢よく返事をした。龍もようやく我に返ったのか、突然驚いた声を上げた。
「ちょっと待った、翔と明さんの後ろにいるそれは一体なんなんだ!?」
翔と明は声を上げて笑った。
「そうだな、 龍にはまだ何も教えていなかった。何も教えることはないと言ったばかりだが、まだ私の仕事が残っていたようだ。ではこれからエレメントの全てについて説明しよう」

「まだ若い頃の話だが、その頃の私のビリヤードの腕は我ながらなかなかのものだった。そしてその当時、もう1人とても強い木本と言う選手がいた。ちょうど今のお前達2人のように、私達は共に練習をし、互いに腕を競い合う仲だった。しかし、決勝で勝つのは決まって木本だった。さすがに私も勝利したいという気持ちが強くなっていく中で、心の中から何者かに呼ばれているような感覚がずっと私の中にはあった。
ある日、山へ散策に出かけると、それまで一度も出くわしたことのなかった大きな滝があった。その前で、突然私は我を忘れたかのように、数時間ほど立ち尽くしていた。当時は知る由もなかったが、今から思えばあれは水のエレメントが私に呼びかけようとしていたのだろう。

家に帰ってからもその水の流れが片時も頭から離れず、自然と目を閉じその光景を頭の中に浮かべていた。すると何を思ったか、にわかに球の動きと水の流れが同じものに見えてきたのだ。ビリヤードにその流れを応用しようというアイデアが私の中に浮かび、 早速実践してみることにした。

 

試しに何球か撞いてみると、川の水が絶えず同じ向きに流れるように、球の流れる方向は撞く前から決まっていたのだ。そのような練習をしていると私の腕はみるみる上がり、 気が付けば木本に負けることはもうなかった。 私は強くなったが、 それでもまだ心の中から何者かに呼ばれている感覚は続いていた。 私と木本は変わらず懇意にしていたので、そのことを正直に話してみると、 もう一度その滝を訪れてみればいいのではないかと助言を受けた。私はしばらくの間、その山に行き続けることにした。

その決断が私の人生を大きく変えてしまうとは、この時はまだ知る由もなかった。山へ着くと私は自然を感じ、自然に耳を傾け、自然と一体になることに安らぎを覚えた。もっと深く自然と繋がりたいと願い、私は瞑想をすることにした。私もまた、その声に呼び返した。そうして何日か経った頃、 声の主は私の呼びかけに応えた。その者は精霊テンプトであることが初めてわかったのだ。

 

そして彼は私にエレメントについてや、自然の力について教えてくれた。それぞれの精霊と繋がることができれば、エレメントの使い手にはその精霊の力によって変化が現れる。 私の精霊テンプトは時の流れを司るため、私は過去や未来の断片を見ることができる。

テンプトの力によって私が目にする時の切れ端の中で、いつも悪夢のような光景があった。 そこでは炎が大きく燃え盛り、徐々に忍び寄る闇があり、最後には決まって炎を消し去ってしまった。それが何を意味するのかは全くわからなかったが、背筋の凍るような気味の悪さがいつも残っていた。

その後、長男として雷が生まれると、彼はすぐにビリヤードの才能を見せ始めた。目まぐるしい速度で上達していく中で、さらに上手くなりたい、強くなりたいという火のエレメントの特性を雷が持っていることに気付いた。 私を悩ます悪夢の正体は雷なのであろうことを悟るのに時間はかからなかった。このままでは雷が危ないと感じた私は、 彼が力を求めすぎないようにする必要があると考えた。そこで精霊の存在を隠し、テンプトを他人から見えないようにした。しかし雷の力は私の想像以上に強大で、結局1人で成し遂げるところまで行ってしまった。あの時私が隠すことなく全てを雷に打ち明け、導いていればこんなことにはならなかったかもしれない。私の中には常にその後悔がある」

龍は少し考えてから質問をした。
「俺の見たところだとウッドランド・ケヴィン選手と滝瀬雫選手もそれぞれエレメントを使いこなしているように見えるんだけど、2人の師匠はもしかして……」
「その通り、 木本岳だ」

 

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