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Chapter22 希望

2021.11.06
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作/Donato La Bella 文/渡部嵩大 監修/関浩一

第21話

明は精霊の世界について、翔に解説を始めた。
「私の精霊であるテンプトは時の流れをつかさどっている。だからこそ、私には過去に起こったことや未来で起こりうることの断片が見える」
「すっげーーー!!」
「詳しいことはおいおい話すが、今は時間がない。とにかく今はお前の精霊であるネモスだけでなく、私の精霊の力も合わせることが必要だ。さあしっかり集中しなさい」

翔は返事をすると、修行で鍛えられた集中力を研ぎ澄ました。まもなく、翔の心に神秘的な声が語りかけた。
「明の息子よ、君の友は今非常に重大な局面を迎えている。君の友を救う望みはまだ消えた訳ではない。私はこの世界のような時間が存在しない、別の次元に行くことができる。そこには過去も未来も存在せず、時間に縛られることなく全ての出来事に触れられる。この世界の存在である君達を、私の力だけで連れていくことは叶わない。だが今の君にはネモスが付いている。彼の風の力を借りることで、君達を別の次元へと導こう」
テンプトの呼びかけに、ネモスは喜んで応じた。

「さすがはテンプト、完璧だね! 風の子よ、僕達が君と君の友を別次元へとご案内しよう。ただしそこから先、友を救うことができるかは君次第だよ。準備はできたかい?」
「ああ、もちろんさ!」
翔と龍の頭上をネモスが旋回し始めると、いつの間にか道場の姿はなくなり、竜巻のような空気の壁が2人を囲った。ネモスは回りながら上昇し、テンプトは呪文を唱え始めた。翔はあっけに取られて上を眺めていた。呪文を終えると同時にネモスが空中で翼をたたむと、真下に向って急降下を始めた。瞬きをする間もなく、爆風が2人に吹き込んだ。

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気が付くと、翔と龍は何もない空間にいた。瞑想中の真っ暗な世界とよく似ていたが、そこは遥か彼方まで白かった。翔の隣にいる龍はもう唸ってはいなかったが、依然として苦しそうな表情をしており、目は闇に包まれていた。
この空間を見渡していると、時折流れ星のような光の筋が走っていることに翔は気が付いた。
指先でその1つに触れてみると、色が広がり、真っ白だった空間に映像が映し出された。

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そこでは翔と龍が道場で競争をしている。一通りの練習を終えた2人は難しいショットの成功率を競い合っていた。普段から彼らはこのような勝負をしており、この日の課題はクッションにタッチしている的球を、普通にはポケット出できない薄い位置から、手球の横回転を駆使して入れるというものだった。直角くらいであれば2人はもう当たり前のように決められるようになっていたので、さらに角度をつ付けた極端に難易度の高い場面で腕比べをしていた。

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普段から頻繁に手球の端を撞くスタイルの翔はこの手のプレーを得意としていたが、夕食がかかっているだけあって龍も負ける訳にはいかなかった。勝者がおかわりの優先権を得られるというルールで、ビリヤードをまだ始めたばかりの頃から2人はずっと腕を磨き合っているのだった。
「グゥウウウ」という大きな音が翔のお腹から漏れた。思わず龍はゲラゲラと笑ったが、気が抜けたせいか、すぐに自分のお腹も鳴った。そんな様子を見て明はその日の練習の終わりを告げたが、もう1本、と2人はキューを離さなかった。
幼い頃の思い出を振り返って翔は温かい気持ちになった。
「懐かしいなぁー。子供の頃から俺達はいつもそうだったな。こんな風に競い合ってバカにし合って、楽しみながら成長してきたんだ」

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翔はまた別の光に手を伸ばした。
それは龍が修行のためにアメリカへと発つ直前の翔の思い出の映像だった。翔は龍の旅立ちを応援して快く送り出したい半面、幼いころからずっと隣にいた友がいなくなるという寂しさに押しつぶされそうになっていた。そのことをすみれに相談すると、龍がいつも自分のそばに置いておけるようなものを贈ることを勧められた。たとえ近くにいられなくとも、心は常に共にあるということをプレゼントに託せば、少しは気持ちも楽になるだろうというすみれの気づかいだった。
その晩から翔は彫刻刀で木を彫り始めた。龍には火のエレメント、自分には風のエレメントをモチーフにしたおそろいのキーホルダーを作ろうと翔は決意したが、なかなか思うような形にはならなかった。部屋に失敗作がたくさん並んだ後で、ようやく納得のいくものができた。

翔は最後にキーホルダーにメッセージを刻むつもりだったが、出発当日、龍のキーホルダーに書かれていたのは「ずっとバカ」の文字だった。それを見た龍は笑いながら翔を小突いた。
龍にはおそろいのものを作ったことは言っていなかったが、去っていく龍の背中を見ながら翔はポケットのなかで自分のキーホルダーを握りしめていた。その裏には「ずっと仲間」と書かれていた。本当は龍にも同じ文字を贈るつもりだったが、翔は恥ずかしさのあまり、少しばかり気持ちを隠してしまったのだった。

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思い出から覚めると、そこはもといた白い空間だった。龍はうめいていた。その目は光を取り戻し始め、端には光るものがあった。

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