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Chapter15 ケヴィンvs雷

2021.04.04
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作/Donato La Bella 文/渡部嵩大 監修/関浩一

第15話

雷に完敗を喫した雫はおぼつかない足取りでテーブルを後にした。近くの椅子に座り込んだ彼女の顔色は、試合前からは想像できないほど悪かった。試合中から明らかに様子がおかしいことに気付いていたケヴィンはすぐさま雫の元へと駆け寄った。雫はケヴィンと目を合わせることなく、わずかに声を震わせながら言った。

「今まで私は自分の強さに自信を持っていたけど、それはただの幻想だった。何1つできなかった。なんて馬鹿なんだろう……」
「何を言っているんだ、しっかりしろ。俺は子供の頃からお前のことを見てきたが、お前は間違いなく強い。一体どうしたんだ」

ケヴィンは本心をそのまま言葉にした。しかし、それが今の雫に届くことはなかった。
その時、2人の隣を雷が通りかかった。肩を落としている雫の姿に気を良くしたのか、すれ違いざまに雷は口角を上げ、わざとらしく含み笑いをした。いつもは冷静なケヴィンも、この時ばかりは頭に血を登らせ言葉を荒げた。

「どういうつもりだ! 彼女に何をした?」
しかし雷は一切動じることなく、さも楽しそうに口を開いた。
「俺はただ、相手を真実と向き合わせてやっただけだ。責められる覚えはない。むしろ感謝するのが筋なんじゃないか? まあ次の試合も君の健闘を祈るよ。ぜひとも決勝でな。」
鋭い視線を向けるケヴィンをよそに、まるで何もなかったかのように雷は歩き去った。
その後もケヴィンは雫を慰めようとしたが、雫が元気を取り戻すことはなく、ふらふらとした足取りで1人、試合会場を後にした。

「なんなんだ……! 必ずあいつを倒して見せる!」
ケヴィンは雫の仇を取ると心に誓った。

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心の波はいまだ収まらず、ケヴィンは準決勝をいつもより早いペースで進めた。頭の中ではすでに次の試合、相手が雷になるであろう決勝戦についてばかり考えていた。彼は普段よりも慎重さを欠いたが、もともとのプレイスタイルが非常に安定しているだけあって、ゲームを有利に進めた。結局相手には一度もリードを譲ることなく、準決勝を勝ち抜いた。

勝利を見届けた太郎は、試合が終わるとすぐさまケヴィンの元に駆け寄って激励の言葉をかけた。しかし、彼は心ここにあらずの状態で最低限の返事をすると、すぐに人だかりから去って行った。雷の存在がいろいろな選手を揺さぶっていることには太郎も気付いており、それ以上ケヴィンに対して何かを言おうとはしなかった。

まもなくケヴィンと雷による決勝戦の幕が切って落とされた。バンキングは観客からは判断できないほどの接戦となったが、レフェリーによりケヴィンがブレイクショットを得た。ケヴィンは絶対に勝つという確固たる意志を持っていたが、同時に相手の強さも嫌というほどわかっていた。だからこそ、このバンキングのように、1つ1つの小さなリードが大きな支えとなっていた。

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決勝戦ともあり、太郎も周りの人とは話さず、全神経をこのテーブルに注いでいた。
「この大会は勝者ブレイクではないから、バンキングに勝ったところで2ゲーム目は必ず相手のブレイクから始まる。交互ブレイクのバンキングは軽視されやすい。でも本当は精神的に大きな意味がある。最初の1ゲームを取ればその後も優位に立つことができるんだ」

太郎の期待通り、ケヴィンは最初のゲームをマスワリで固く守った。その後両選手は一歩も譲らず、雷が追い付いてはケヴィンが一歩リードする展開を繰り返した。
3-3で迎えた7ゲーム目あたりで、ケヴィンは自分の体が少しずつ重くなってきていることに気が付いた。雷と戦っていた雫の様子を思い出した彼は、このままではだめだと相手のことを頭から振り払った。雷にターンを譲った彼は、テーブルを眺めながらも幼少期の記憶に思いを巡らせていた。

雫とケヴィンは幼い頃からいつも一緒にビリヤードを練習し、それが終わると外で遊んでいた。ある日のこと、いつも通り練習を終えた2人がバレーボールをしていると、雫の上げたボールが柵を越えて茂みへと消えていった。そこは2人が師匠に絶対に立ち入ってはいけないと言われていた場所だった。しかし、雫はボールを取り返そうと柵を乗り越えて中へと走って行ってしまった。ケヴィンは雫を引き留めようと彼女の後を追った。

ボールが坂を転がり落ちたせいか、雫は奥へと進んでしまったようだった。ケヴィンは恐る恐る足を進めると、ボールを抱えたまま座り込んでいる雫を発見した。近付くと、雫は怯えてうずくまっていた。その先に目を向けると、子熊がこちらを覗いていた。急に事態に気付いたケヴィンは、自分でも驚くほどの勇敢さで熊を睨み付けながら大声で追い払った。そして震える雫の手を強く握ると、彼女を引っ張って急いで道場へと引き返した。

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子どもながらにも、大切な友達を自分の手で守ることができたという経験はケヴィンに自信をもたらした。そして今、彼はあの日と同じ場所に立っていた。自分が雷を倒さなければならなかった。
「I can do it.」
キューを強く握りしめ、ケヴィンは立ち上がった。

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