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Chapter 40 最後の戦いの幕開け

2023.08.24

作/Donato La Bella 文/渡部嵩大 監修/関浩一

第40話

リードを奪った翔は、もうケヴィンの仕掛ける作戦を気にする必要がなくなった。自分がブレイクするゲームさえ取れば、先に9ゲームを取ることができる。翔は風の中をネモスと舞うように試合を進め、再び流れを奪われることなく、9-8でケヴィンに勝利した。準決勝を終えた翔は、すぐさま相手に話しかけに向かった。

「ありがとうございました。でも1つ聞きたいことがあるんです。僕が完全にリードを奪われたあの時、ケヴィンさんはそのまま勝つことができたはずです。なぜセーフティをしたんですか?」
当然の質問だ、とケヴィンは頷いた。
「俺もそのつもりだったよ。でもドールがああさせたんだ。最後にもう一度鷹上翔を試したい、と彼は言った」
「僕を試す? それはどういうことですか?」
ケヴィンは真剣な表情で翔を見つめた。
「俺たちは本来ライバル、試合になったら敵同士だ。でも今はもっと大きな相手がいるだろう。お前の兄さんを止めなきゃこのビリヤードというスポーツに未来はない。そして、奴を止められるのはお前しかいないとドールは見抜いた。もう一度チャンスをやってくれと頼まれたんだ」
その言葉に翔は驚きを隠せなかった。
「ドールが?!」
「ああ、その通りだ。本当の力を引き出すだけの器があるか、ドールは見たかったようだ。幸い、お前はドールの目に敵うプレーを見せた。あのタイミングで灼谷が現れたのも、天が味方をしているのかもしれないな!」

龍、雫、明もいつの間にか会話の輪に入っていた。明は翔の肩に手を乗せて語り始めた。
「我々人間が一人一人異なるように、精霊たちにもそれぞれの色がある。風の精霊はこの世界を取り巻く空気の動きを捉え、火の精霊は燃え上がるように力や欲望をたぎらせる。水の精霊は時間の流れと相互に作用する。彼女や私のようにね。そして、地の精霊はこの地球と深く繋がっている。常に人間を見守ってきたこの大地には、海よりも深い知恵がある。地の精霊は誰よりも賢明なのだ」

「ドールの本当の力は、相手の心を読んで、相手を理解することです。モルナを打ち破って雷くんを正しい道へと引き戻す力を、ドールは翔くんの中に見出しました。ドールはこの状況の危うさを誰よりも理解しています。彼を止めるのは、今この場所しかないんです」
ケヴィンは翔を見据え、託すように言った。その気迫と責任感にやや圧倒されながらも、翔はしっかりと言葉を受け止めた。
「ありがとう、ありがとうございます。僕は1人で戦っているわけじゃありません。家族や仲間、対戦相手から強さをもらっているからこそ、ここまで来れました。最後の試合は、皆の試合です。僕に力を貸してください!」
「こんなにたくさん味方がいるんだ、俺たちに任せとけよ!」
雷との試合の屈辱を払拭するように、龍は無邪気に翔の背中を押した。

少し静かになった会場の端のテーブルで、翔は落ち着いて練習をしていた。いつもの仲間だけでなく、ケヴィンや雫の存在も身近に感じ、翔は今までにない心強さを実感していた。決勝戦に向けても確かな希望を抱いていた。すぐそばでは、皆が彼の練習する姿を見守っていた。

一方、もう1つの練習台は空だった。雷は会場にすら姿を見せていなかった。試合の5分前になり、翔がテーブルで準備をしていると、ようやく雷が現れた。彼は予選から一貫した冷たいオーラを纏って、決勝の舞台に上った。家族に対する眼差しなどそこにはなかった。

「お前の相棒の小鳥ちゃんとの別れは済ませたか? 俺だってわざわざ弟をいじめる真似をしたくはないが、強くない奴はつぶされて当然だ」
「雷、お前は間違っている。本当の強さで俺は勝ってみせる!」
「はっはっは! さっきも聞いたような戯言だな。お前の小さいお友達とよく似ている。彼のペットはもういなくなったようだがな!」
翔はそれ以上言い返すことはなく、ただ相手のことを睨み続けた。穏やかな心と激しい感情が彼の中で共存していた。
決勝の火ぶたがついに切られた。

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