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エレメント

2020.07.04

Chapter6 翔 vs 龍(3)

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作/Donato La Bella 文/渡部嵩大 監修/関浩一

第6話

すみれの励ましを受けて少し落ち着きを取り戻した翔は、しっかりとこのゲームを取って、「必ず4-4に持ち込むぞ」と気持ちを新たにした。負けることへの恐怖を抑え、いつもの翔らしい元気さを取り戻しているように見えた。ブレイクの構えに入りながら呼吸を整え、それまでこわばっていた表情も緊張が解けていた。手球のラインをイメージしながら、脳裏には幼い頃の思い出が再び蘇っていた。

鷹上翔8歳、灼谷龍9歳。
その日、2人は初めて翔の父親、鷹上明からエレメントについて教わった。難しい話だったが、エレメントを制する者がビリヤードを制すのだという彼の言葉は強く印象に残った。そして、その日からエレメントを習得するための練習が始まった。

まだ幼い2人は、エレメントのことを映画で観るような特殊能力だと思っていた。練習後も、2人はエレメントの話で持ちきりだった。
「ねえ龍、さっきの話すごかったね! ヒーローみたいな技が使えたらかっこいいなあ!」
と興奮冷めやらぬ様子の翔に、龍も
「うん、そうだな! いつか絶対使えるようになってみせる!」
と奮い立っていた。2人はこぶしを突き合わせ、
「「世界一のビリヤード選手を目指して頑張るぞ!」」
と誓い合った。

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試合では、ブレイクで的球をポケットした翔がプレーを続けていた。⑥と⑦がくっ付くというトラブルが発生し、⑥が回ってくる前にこれを解消する必要があった。しかし、④までの的球の位置関係の都合が悪く、このような配置で⑤を迎えることとなった。

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ブレイク直後の配置でマスワリは相当難しいことを試合を観ている人の多くが勘付いていた。一筋縄でいかないことなど翔にもわかっていただろう。しかし、彼はまるでトラブルに気付いていないかのようにあっさりと④までを処理した。

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雫とケヴィンはそんな翔のプレーの変化にすぐに気付いた。
「なんだかテンポが上がってきたね」
「ああ、調子が良くなってきている。気持ちの変化でもあったんだろう」
「⑤はどうするつもりなのかな?」
「簡単だ。こんな場面、セーフティしかない。こうやってな」

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ケヴィンはテーブルを指さしながら説明した。
「大体、相手はリーチをかけている。ミスショットでもして良い配置を渡したら、それこそゲームセットだ。スーパーショットを狙うのはリスクが高すぎる」
「ケヴィンらしい選択だね。でも最もな意見だし私も賛成。もしかすると、鷹上くんも最初からセーフティのつもりだったから無理せず④まで取ったのかな」

翔はそれまでと同じペースで手球に対して構えると、⑤の左側を薄く狙い、目一杯回転を乗せるように右下を撞いた。大方の予想を裏切り⑤をコーナーにポケットすると、手球は逆回転により減速しながらクッションに入った。
そして今度は横回転で方向を変えながら、クッションで2回加速すると、⑥と⑦に引き寄せられるように真っ直ぐ向かった。絶妙なスピードでトラブルを解消し、後にはきれいな配置が残った。

テーブルの周りでは感心する声と、手を叩く音が聞こえた。

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残った配置を見つめながら、ケヴィンは驚きを隠せなかった。
「Amazing......さっきまでのプレーでは判断しかねていたが、これは間違いない」
「うん、今のショットは風のエレメントだね。この場面で迷いなく、それも最初からそのつもりで今のを選ぶとはね。正直驚いたよ」

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このスーパーショットをもってゾーンに入った翔は、迷うことなくこのゲームを取り切り、4-4とした。

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一番近くで今のプレーを目の当たりにした龍は、2年の間に翔が確実に成長したことを実感した。けれども、誰よりも翔の近くにいたからこそ、龍は決して驚きはしなかった。ビリヤードにかける翔の熱意を考えれば、彼が上達するのは当然のことだった。同じ思いで、龍も2年間研鑽を積んできた。だからこそ、全力で翔と戦うために、龍は気持ちを変えることなく集中を維持していた。

勝負の行方は運命のファイナルゲームへと持ち越された。
ブレイクは翔。風は彼に向って吹いていた。

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